「退院は難しい」と言われたアルコール依存症の夫が、自宅復帰で見違えるほど回復した理由【訪問看護事例】

アルコール依存症は、ご家族に暴力的であったり、お酒が切れると衝動性にかられたり、認知機能が低下したり、お酒ばかり飲んで食事を食べなかったり、と様々な方面への影響があります。

今回ご紹介するのは、アルコール依存症による肝機能障害、低栄養、認知症があり入院加療されており、

主治医より退院は難しいため施設を勧められていたが、妻の強い希望で在宅復帰された事例をご紹介します。

1.事例紹介:アルコール依存と認知症状で「退院困難」とされた77歳Sさん

77歳 男性 Sさん

普段は穏やかでしたが、仕事を引退されてから、お酒を飲むようになり、徐々に量も増え、24時間お酒を飲んでいる状態でした。

次第に、お酒がないと精神状態不安定にあり、常にお酒を探している、お酒がなくなると夜中でも買いにいく、衝動的な行動が増える、会話がなかなか成立しない、物忘れが増えるなどの症状が出ていました。

ある日、内科の血液検査で肝機能の悪化により、入院することとなりました。

入院当初は、離室行為(病院を抜け出す)があったり、アルコール離脱症状があり点滴を抜く、椅子を蹴っけ破損させる、徘徊(病院内をウロウロする)などの行為がありました。

幻覚などの周辺症状もみられており、指示動作も入らず、会話が一方的なことが多く、病院スタッフの言うことは聞けない状態でした。

CT上 脳の萎縮があり、アルコールによる抹消神経障害もあり、歩行動揺性による転倒リスクも高い状態でした。

日中はベッド柵に両足をかけてベッドから落ちそうになっていたり、吸引チューブを引っ張る、ティッシュを食べるなどに危険行為がみられていました。

そのため、向精神薬や眠剤の内服にて入眠を図り、危険行為や転倒リスク高いときや、やむを得ない時は両手を抑制されていました。

日中は車いす移乗し安全ベルト装着のうえナースステ―ションで過ごし、夜間は両手を抑制されていました。

もちろん徐々にADLの低下があり、車いす移乗もほぼ全介助で、排せつもオムツ対応となっていまいた。認知機能の低下もさらに進み指示はほとんど入らず食事も介助が必要な状態となっていました

訪問看護の依頼を受け、病院に面会に行きましたが、Sさんは車いすで首を垂れた状態で会話もままならない状態でした。元々の脳の萎縮に加えて、向精神薬や睡眠薬などの影響と考えられました。

表情も無表情で、会話もあまり成立しませんでした。

今後、向精神薬や睡眠薬を減らしていくとしても、どのような精神状態になるか不明な状態でした。病院の医師や看護師からは、自宅への退院は厳しいといわれ施設を勧められていましたが、妻の強い希望で自宅へ退院する運びとなりました。2か月半の入院期間でした。

2. 在宅復帰に向けた体制づくりと工夫

妻は仕事をしていたため、退院後は日中は絶対に1人にならないように、友人や親せきが付き添ってくれるように調整し、退院後2週間は訪問看護師が毎日訪問するようにしました。

夜間は妻が付き添いします。

また、室内は転倒しないようになるべく家具を減らし、介護用ベッドを搬入しました。また、玄関やお風呂には手すりを設置しました。

そして、アルコールの購入がでできないように、金銭はご本人が触れないように徹底しました。

妻は介護ヘルパーの仕事をされていたので、介護ケアの手技は手慣れていました。

3. 退院後の経過と劇的な変化

退院翌日の様子:自力で立ち上がり、会話も成立

退院翌日から訪問させていただきました。

妻からの話によると、退院日は落ち着きなく、室内をずっとうろうろしていましたが、夜は眠剤を飲まずに眠られたとのこと。

訪問初日、Sさんは入眠されていましたが、問いかけに覚醒され、ベッドサイドに自力で端坐位で座ることができ、立ち上がるように声かけするとゆっくり立ち上がることができました。

ふらつきは少しありましたが、呼吸の乱れや気分不良はありませんでした。

会話では、やや言葉不明瞭で聞き取りにくかったですが、会話は成立していました。

「何か困っていることはないですか」と尋ねると、「お金がない」とユーモアたっぷりで話されました。表情も柔らかく、お酒を探すような行動もありませんでした。

退院1週間後の様子:排せつも自立し、お酒の衝動もコントロール

日常生活は、円滑に行えており、食事も準備すると、ご自分で普通の食事を食べることができていました。

また、トイレも失敗することなくご自分で行くことができていました。

夜間は、1個の眠剤のみでよく眠れていました。

お酒は、「飲みたいけど身体のために我慢している」と発言あり。金銭をご本人には持たせないように管理していました。以前は、飲みたいという衝動で夜中でも買いに走ったり、部屋中のお酒を探して室内を荒らしたりしていましたが、そのような行為もなく過ごされていました。

退院後2週間後の様子:本来の穏やかさを取り戻す

退院してから2週間で、私たちが病院で見たSさんとは見違えるほど回復されていました。

アルコール依存の時の様子は全くなく、完全に落ち着いたいつものSさんの様子になっていました。

アルコールさえ再開しなければ、当分は日常生活に問題はなく生活していくことができる状態になっていました。

日中も、友人や親せきに付き添いをしてもらっていましたが、一人で過ごすことができる時間も増やしても大丈夫なご様子でした。(念のため、お金は持たせませんでした)

4. 訪問看護師の視点:なぜご自宅に戻ると回復するのか?

病院では、Sさんの様な精神状態の患者さんには、

転倒転落や危険な行為をしないように、向精神薬や睡眠薬を飲んでもらって精神状態を落ちつかせる方法を取ることが多くあります。

病院では、人手が足りなかったり、スタッフのや周囲の患者さんの安全を確保したりするために、どうしてもそのような手段が必要になることが多いです。

その状態で、退院は無理だと宣言されても、Sさんのようにご自宅に帰ると、見違えるように回復することが多くあります。

以前、このブログでご紹介したNさんも同様に、病院ではお食事をほとんど食べませんでしたが、ご自宅に戻ると食事もしっかり食べられるようになったという事例もあります。

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ご自宅というのは、一人ひとりにとってとても安心できる居心地の良い場所といえます。

その環境にいるだけで、精神的に落ち着かれ、以前の生活していた頃のような感覚に戻っていくことも考えられます。

さらに、病院で飲んでいた向精神薬や睡眠薬の量を減らし、いつもに近い状態に戻すことで、いつものSさんの状態を取り戻すことができました。

アルコールからの離脱と、向精神薬からの離脱で、在宅復帰をすることができました。

今後も、アルコールを飲まないとは限りませんが、現在の生活を出来ていれば穏やかに過ごすことができるでしょう。

在宅復帰には、ご家族や親族の協力や復帰に向けた医療の調整などが必須になります。

今回のSさんは比較的スムーズに日常生活を取り戻せましたが、介護期間が長くなる場合もありますので、ある程度の覚悟も必要ではあります。

もし、病院で主治医から在宅復帰は困難と宣言された場合でも、環境を整えれば可能な場合もありますので、ケアマネージャーさんや、訪問看護師、地域連携室のスタッフ、主治医に相談していただければと思います。

まとめ:主治医から「退院困難」と言われても諦めないで

執筆者プロフィール

mikakoro 在宅医療の現場で働く現役の訪問看護師です。 「おうち療養ガイド」として、床ずれ(褥瘡)ケアや日々の在宅介護で直面する疑問・不安を解決するためのヒントをお届けしています。家族だけで頑張りすぎない、無理のない在宅介護を応援します。

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