現在、日本の高齢化は年々進んできています。
どなたかが、在宅で過ごそうと思えば、日常生活の世話や介護は誰かが担わなければなりません。
しかし、老々介護の現場では、介護者の疲弊や精神的負担が大きな問題となっています。本記事では、実際の訪問看護現場の事例(※プライバシー保護のため一部改変)をもとに、限界を迎えないための対策やサービス活用の考え方を解説します。
ギリギリの状態で在宅介護生活を続けておられる90歳台のご夫婦の一例をご紹介します。
※登場する人物や事例は、個人特定を避けるため一部改変・抽象化して掲載しています
※この記事は現場で働く訪問看護師が執筆しています
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事例 90歳 Nさん 女性
感染症で入院されており、感染症は完治したが、徐々に食事量低下で病院食を食べず。
このままでは胃ろうを作らなければ命がないと病院から言われたが、夫もご本人も胃ろうを拒否され、最期は自宅で看取りたいと退院してこられました。
夫(93歳)との二人暮らしで、子ども2人おられますが、ご夫婦とは疎遠。財産などのことで色々と揉めているようで「子どもには絶対に財産を残したくない」と宣言させるほどです。子ども達の、介護への協力は全く期待できない状況でした。
在宅介護の日々の始まり
Nさんはベッドから一人で動くことができない寝たきりの状態ですが、コミュニケーションは良好でした。
食事がほとんど食べれない状況だったので、毎日の点滴が必須でした。また、オムツ着用されており、オムツ交換、毎日のお食事の介助、糖尿病のインスリン投与も必要な状況でした。
退院後より、地域の訪問診療をしてくれるクリニック(医師)を探し、介護ヘルパーさん1日2回の訪問(朝・夕方)と訪問看護師1日1回(昼)の訪問が開始となりました。
看護師の訪問時は、点滴、食事介助、インスリン(糖尿病の注射)をしておりました。
驚くことに、入院中はほとんど食べられなかった食事が、ご自宅ではよく食べられるようになってきて、点滴は必要なくなりました。
やはり住み慣れた環境や、周りを気にせずに食べられる環境、ご自分の嗜好品を食べられるなどが影響している様でした。「病院のごはんは美味しくなかった」
かといって、糖尿もあるので菓子パンや甘いものなど好きなものばかり食べてもらうことはできません。栄養バランスを考えての食事でしたが、それでもやはり慣れた味が良かったのでしょう。
また、病院では介助してくれるスタッフもバラバラで嫌いなスタッフさんもいた様でした。在宅介護や看護は、相性を見ながら、ご本人が一番自分らしくいられるスタッフを配置することができます。ご本人の要望も聞くことができるので、病院での状況よりは理想的だったのかもしれません。
エンシュアという高カロリー補助食も、栄養状態改善が重要ということで、糖尿病はありますが処方してもらい飲んでもらっておりました。
みるみる、全身状態改善、お元気になってきました。
夫の介護への介入
オムツは夫は全く触らず、ヘルパーと看護師の1日3回の交換のみです。
毎回、水道水で洗って清潔を保持することで陰部のスキントラブルはなく過ごすことができていました。排便も、便秘気味でしたが浣腸や下剤でコントロール良好でした。
訪問入浴は介護の点数不足のため、介入できず。入浴はせず清拭のみで対応していました。デイサービスは体験いかれましたが好まれず、中止となりました。
食事も、夫は全く手を出さず、買い物もヘルパーに任せておりNさんへの身体的介護という点では、そこまで負担になっている印象はありませんでした。
昼夜逆転・夜間不穏
血糖管理も排便コントロールも食事摂取も順調でしたが、退院してしばらくたつと、昼夜逆転、やや不穏な精神状態になっておりました。
夜間、大きな声で叫ぶ、リモコンでベッド柵をコンコンとずーーっと叩く、ベッドから降りようとして転落する、などです。
夫も眠れない状態が続き、睡眠不足から帯状疱疹になったり、コロナに感染したり、と体調不良が続き、精神的にも参っていました。
2-3度、夜中にベッドから転落し、夫一人では抱えてあげることができずに、警察のお世話になったこともありました。さすが、警察官の方々は鍛えておられるのか重たいNさんを、ひょいと持ち上げてベッドに戻してくれたそうで大変感謝されていました。
日中は傾眠状態(ウトウトされる)、夜間は目をランランとさせ不穏の日が続いたため、睡眠薬や抗精神薬などで調整したのですが、なかなか上手くいかずに、今度は眠りすぎてしまい、食事が食べられなくなるという事態に陥ってしまいました。
夫の睡眠不足からのイライラは徐々に増してきて、アルコールに逃げるようになり、朝からチューハイやビールを飲んでフラフラな状態でした。
そして、Nさんの発言に激怒して怒鳴りつける、なども増えていました。昔の方の感覚なのか、男尊女卑ともとれる発言などは多い気がしました。
施設という選択
このままでは、Nさんも夫も精神衛生上 良くないと危機感を持ったスタッフは、夫にNさんの施設入所など提案しました。幸い、財産はたくさんあるため、お金のことは弊害にならないと思っての提案でした。
しかし、夫はかたくなに拒否されました。
「寂しいし、Nに申し訳ない」と言うのです。
精神的にも体力的にも限界に近いため、せめてお互いのレスパイト(休憩)目的でのショートステイ(数日間)の利用を進めましたが、これも拒否されました。
「責任を持って、自分で看なければ」や「離れて暮らすなんてもってのほか」という考えが奥底にあるようでした。
ギリギリの状態での日々
Nさんの夜間不穏に対して、ギリギリの処方薬(睡眠薬と抗精神薬)で、ぼーーーっとした状態にして、過ごしてもらいました。ギリギリお食事は食べられる程度です。
しかし、やはり夜間の不穏は時々出ており、夫もアルコールに頼りがちになっていたので、大声で叫んで怒鳴ったり、突発的な乱暴さは続いていました。(普段はとても穏やかな方です)
しかし、Nさんも負けていません。大声で怒鳴り返したり、大泣きしてみたりと、なかなか騒がしい夜の日もありました。
今も
退院してきてから、2年が経った今も、現状維持のままご自宅での老々介護の日々が続いています。
夫は、やはりお酒の量が多い状態ですが、
オムツや食事には一切手を出さずに、ヘルパーや看護師に任せているため、介護自体の負担は多くない様でした。
ただ、24時間365日 Nさんとずっと一緒にいる状態なので、少しの物音が気になったり、「お父さん」と呼ばれたらそばに行ってあげる、という行為は必要な状態です。
Nさん自身は、お薬を飲んでもらっているため、以前ほどの不穏や困った行為はなく過ごせています。お食事もまずまず順調に食べられていますし、血糖値もコントロール良好です。あとは、お風呂に入ることができればベストですが、介護保険の点数の範囲内でのやりくりとなると、現状では困難な状況です。
在宅での老々介護
Nさんの夫は、Nさんの身体のケアには全く参加しませんでした。そのことは、介護負担を減らせており、長く在宅生活を続けられる要因だったかもしれません。
また、Nさんが全くの寝たきり状態で介護度5 を申請できていたので、それだけ看護や介護のサービスを利用できる回数や時間が多くなっていました。
もし、車椅子に移譲させての食事や散歩が必要だったり、一人で歩けて徘徊できる状況だったりした場合は、夫への介護負担がさらに大きくなっていた可能性があります。
在宅での介護では、訪問ヘルパーさんや訪問看護、訪問入浴、デイサービスなどの利用で、すこしでも快適に、すこしでも精神的身体的に負担が少なくなるようにすることが出来るはずです。
また、必要であれば、休息目的でのショートステイの利用なども出来ますので、ケアマネージャーさんへご相談ください。
子育てと一緒で、無理せず、介護される方もする方も 幸せであるべきと私は思っており、心からそうであって欲しいと願っております。もし、在宅の介護で悩んでおられる方や切羽詰まっておられる方がいたら、一人で悩まずに相談してほしいと思います。必ず、改善の道はあるはずです。
老々介護で限界を感じた時の3つの相談窓口
地域包括支援センター、ケアマネジャー、訪問看護ステーション、訪問介護ステーション
※当ブログの情報は体験談・事例紹介であり、医療的診断や助言に代わるものではありません
mikakoro
執筆者プロフィール
mikakoro 在宅医療の現場で働く現役の訪問看護師です。 「おうち療養ガイド」として、床ずれ(褥瘡)ケアや日々の在宅介護で直面する疑問・不安を解決するためのヒントをお届けしています。家族だけで頑張りすぎない、無理のない在宅介護を応援します。
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