高齢者の広範囲熱傷(Ⅲ度)における在宅療養と後遺症ケア【訪問看護の症例】

熱傷(やけど)は傷が治って終わりではなく、その後の生活や身体機能に大きく関わる後遺症へのケアが重要になります。特に高齢者の場合、長期間の安静に伴う筋力低下や認知機能への影響など、多角的なサポートが欠かせません。


本記事では、お風呂で全身にⅢ度熱傷を負いながらも、環境を整えて在宅療養へ移行された80代男性・Kさんの症例をご紹介します。実際の経過とともに、注意すべき後遺症や在宅ケアのポイントを解説します。

熱傷(やけど)の重症度と分類

やけどには、重症度があり、Ⅰ-Ⅲ度の熱傷という書き方でレベルが分けられます。この分類は、熱傷(やけど)の皮膚の損傷が及んでいる深さ(深度)による分類です。

1度熱傷(Ⅰ度)

  • 深さ: 表皮(皮膚の一番外側の層)のみ
  • 症状: 皮膚が赤くなり、ヒリヒリとした強い痛みや熱感がある。水ぶくれはできない。日焼けに近い状態。
  • 経過: 数日程度で自然に治り、跡も残りにくい。

2度熱傷(Ⅱ度)

  • 深さ: 真皮(表皮の下の層)にまで及ぶ。浅い層(浅達性)と深い層(深達性)がある。
  • 症状: 水ぶくれ(水疱)ができ、強い痛み(浅い場合)や鈍い痛み(深い場合)を伴う。
  • 経過: 浅いものは1〜2週間で治り跡が残りにくいが、深いものは3〜4週間以上かかり、傷跡(瘢痕)や色素沈着が残りやすい。

3度熱傷(Ⅲ度)

  • 深さ: 皮膚の全層、さらに皮下組織や筋肉にまで及ぶ深刻な損傷。
  • 症状: 神経が破壊されるため、痛みを感じないことがある。見た目は白、茶褐色、または黒く変色し、皮革のように硬くなる。
  • 経過: 自然治癒は難しく、手術(植皮など)や専門的な治療が必要になる。跡も残りやすい。

詳しい分類や正しい応急処置については 

出典・参考: 日本形成外科学会 やけど(熱傷)

80代男性・Kさんの症例:Ⅲ度熱傷からの在宅復帰

💡 ここから下に実際の熱傷の写真が表示されます。 本記事では、熱傷の経過を分かりやすくお伝えするため、実際の症例写真を掲載しています。
一部、傷口の様子がリアルに写っている画像が含まれますので、苦手な方は閲覧をご遠慮いただくか、ご注意のうえ読み進めていただきますようお願いいたします。

受傷から退院までの経過

80歳代 男性 Kさん

認知機能がやや低下しておりましたが、大きな病気をしたことはなく、マイペースに過ごしておられました。

身寄りはなく、ヘルパー様の支援を受けながら、お一人暮らしをされていました。

ある日、お風呂の湯沸かし機能が熱湯しかでないタイプ(混せん)で、誤ってお風呂に溜めた熱湯の中に浸かってしまい、自力では出られなくなってしまい、ヘルパーさんに発見されるまで時間を要しました。

1か月半の入院を経て、傷は完治していませんでしたが、全身状態は落ち着いていたので、在宅医や訪問看護などの環境を整えたうえで、退院となりました。

退院後は、訪問介護サービスは1日2回の利用で、訪問看護も1日2回の訪問をセッティングしていました。

退院日の写真です

Ⅲ度熱傷受傷後1か月半後の臀部から背部にかけて(壊死組織が残っており浸出液の多い状態)
Ⅲ度熱傷受傷後1か月半後の背部の写真(壊死組織が残っており浸出液の多い状態)
Ⅲ度熱傷受傷後1か月半後の足首(壊死組織の残存した状態)

こちらは、退院初日の写真です。病院には1か月半入院されていたので、受傷から1か月半後の写真ということになります。このように、キズにはまだ白っぽい壊死組織が残っており、キズからは浸出液(汁)が出ています。痛みは強く、かゆみも伴っていました。

全身の筋力は落ちており、ベッド上で寝たきりの状態でしたが、意識はある程度しっかりされていました。(ある程度の認知機能低下はありましたが)

食事は、栄養のある食事をヘルパー様に準備していただき、栄養補助食品であるイノラスを1日1本飲んでもらっていました。

陰部の近くにもキズがあったので、オムツの尿で汚染されないように、尿カテーテルを挿入していました。

痛みとかゆみで眠れないため、痛み止めのお薬と、睡眠薬を飲んでおられました。

また、どうしてもかゆい所をかいてしまい、創部の出血をくりかえしていたため、手のとどかないようになっている介護服を着用していただきました。

何回もベッドから降りようとされ、ベッドから落ちた状態で発見されることが頻繁にありました。ベッドを低床にし、ご本人にも再三の指導を行いました。

ADL面では、体位変換に協力的で端坐位や立位保持、足ふみなどのリハビリテーションを継続していました。

退院2か月後の創部と状態変化

退院後より、訪問看護師により毎日キズの洗浄とお薬(ゲーベン)の塗布、ガーゼ保護、排便管理など行いました。

陰部にもキズがあり、排便での汚染があってはダメなので、1日2回訪問していました(陰部の清潔目的)

高熱を出すこともなく、経過良好でした。

Ⅲ度熱傷受傷後3か月半後の背部(上皮化がすすんでいる状態)
Ⅲ度熱傷受傷後3か月半後の足首(上皮化がすすんでいる状態)

じゅくじゅくしていたキズは、皮膚が張ってきて(上皮化)、経過は良好でした。

このころから、軟膏は変更になり(写真に記載している軟膏へ)、尿カテーテルは外しました。皮膚が張ってきた箇所は突っ張りが強く、ご本人が違和感を頻繁に訴えられていました。何回も保湿剤を塗り、マッサージなど行いました。

しかし、創部の経過とは反対に、徐々に、飲み込みが悪くなり、痰がらみの咳が目立つようになってきました。

必要時には吸引も開始していました。

退院3か月後の経過

Ⅲ度熱傷受傷後4か月半後の臀部(上皮化した状態)
受傷4か月半後のⅢ度熱傷の足首(上皮化した状態)

確実に徐々に、良くなってきています。

栄養状態は良いのですが、やはり嚥下は良くなく、せき込むことが増えてきました。

必要時は吸引も行っていましたが、ある日のヘルパーさん訪問時、呼吸困難な状態になっており救急搬送の運びとなりました。

熱傷(やけど)後に注意すべき主な後遺症

今回のKさんは、広範囲のⅢ度熱傷を受傷され、キズが残った状態で帰宅され、訪問介護、訪問看護、訪問診療の環境を整え、約4か月間でしたがご自宅で過ごすことができた事例でした。

嚥下状態が悪くなければ、このまま在宅でキズも完治していたでしょう。

Kさんの主な後遺症

・長期間の安静によるADL(日常生活動作)の低下

・認知機能の低下

・嚥下機能の低下

・皮膚のかゆみと突っ張り感

・受傷範囲の痕(傷跡は明確に残るが、数年経過で薄くなる可能性あり)

キズは写真でわかるように、受傷した範囲ははっきりと残ります。あくまで受傷後約5か月目までの写真ですが、数年経過すればもっと薄くなる可能性はあります。

まとめ

Ⅲ度熱傷を受傷した高齢者でも、感染が起こらなければ、キズの完治は可能であると考えられます。

感染防止に必要なケア

・毎日の清潔で適切な創部処置

・十分な栄養摂取(必要に応じて栄養補助食品を活用)

・オムツ内などの清潔維持

今回Kさんは、嚥下機能低下による呼吸困難によって残念ながら在宅生活を続けることはできませんでしたが、Ⅲ度熱傷のキズが完治していなくても、在宅で処置を続けることができれば退院も困難ではないと考えられます。

しかし、皮膚のツッパリ感やかゆみ、また皮膚の傷跡の残留など、日常生活において影響をおよぼすような後遺症も残ってしまう可能性はあります。

痛み止めや睡眠薬の適切な使用と、保湿軟膏のこまめな塗布によって、症状を和らげることはできますので、主治医や訪問看護師にご相談ください。

熱傷部の瘢痕については、形成外科という選択肢もありますので、主治医にご相談ください。

執筆者プロフィール

mikakoro 在宅医療の現場で働く現役の訪問看護師です。 「おうち療養ガイド」として、床ずれ(褥瘡)ケアや日々の在宅介護で直面する疑問・不安を解決するためのヒントをお届けしています。家族だけで頑張りすぎない、無理のない在宅介護を応援します。

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