糖尿病患者の小さなキズが重症化するプロセスと在宅看護の限界:訪問看護師の事例解説

訪問看護の現場事例

糖尿病はキズが治りにくい、と聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。

今回は、数か月にわたり在宅で治療をしていましたが、糖尿病があり悪化の経過をたどった一例をご紹介いたします。

78歳、Bさん、男性、糖尿病歴は38年

長年インスリンされていましたが、お年とともに食事量減ってきており、70歳ころより毎日のインスリン注射はなくなって、1週間に1回のインスリン(オゼンピック0.25mg)と飲み薬でコントロール中です。

もともと、下肢の浮腫みも強い方で、皮膚自体も脆弱な方です。

妻とは50年以上前に離婚、息子たちとは疎遠で、お一人暮らしのため、ヘルパーさんも利用されつつ、1週間に1回、訪問看護師が状態観察のために、訪問していました。

ちょっと、こけただけ

💡 ここから下に実際の創部の写真が表示されます。 本記事では、糖尿病患者のキズの経過を分かりやすくお伝えするため、実際の症例写真を掲載しています。
一部、傷口の様子がリアルに写っている画像が含まれますので、苦手な方は閲覧をご遠慮いただくか、ご注意のうえ読み進めていただきますようお願いいたします。

ある日

「部屋で転けたわー!わははは。」と報告あり。

「大丈夫ですか?頭とか打ってませんか?」

「大丈夫や!足をちょっと打っただけや。ちょっと痛いだけやー」

良かったです。

糖尿病患者のちょっとこけた後の下肢の左右の様子 出血などはなく少し腫れているだけの様子
糖尿病患者の下肢の腫れと発赤の様子

結構、腫れてます。痛そうです。

「でも、血が出てないから良かったですねー」

出血はなく、運動制限なく関節の動かせる範囲も問題ありませんでした。

痛みは我慢できる程度で、翌日整形外科受診され骨折はないとの診断でした。

水ぶくれ

糖尿病患者の水ぶくれの写真 注射器で水を抜く必要のある写真

3日後

「なんか、水膨れになったわぁ。」と連絡があり訪問すると

大きな水疱になってしまっています。

水疱は、水(浸出液)に栄養分が含まれているため、通常なら破らず皮膚に水が吸収するのを待つことが多いのですが、ここまで大きい場合には、水を注射器で抜いて対応します

100mlもの水(浸出液)を回収できました。

圧迫排液すると、どんどん水が溢れ出てくる状態です。

アズノールを塗ってメロリンガーゼ+包帯で固定して経過みます。

皮膚の脆弱な方には、肌に優しい下記のテープがおススメです。


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糖尿病患者の排液処置後、数日経過して周囲に発赤と腫脹が見られる下肢の様子

注射器で水を抜いてから数日後

キズの周囲がプニプニしています。

また、ガーゼにはボトボトになるほどの多量の浸出液がついている状態です。

油断できない状態が続きます。

このままでは、悪化のおそれがあるため、ここから毎日処置のために毎日看護師が訪問することとなりました

毎日、シャワーで足を洗って処置を継続していきます。

乾燥してほしいが、悪化傾向

浸出液が多くなってきており悪化傾向の糖尿病患者の下肢

さらに4日後です

周りの皮がめくれ、滲出液がじゃかじゃか出ています。

一般的な方の水膨れなら、破裂したらそのまま乾燥して治癒に進むことが多いのですが、

この方はもともと下肢浮腫があったのと、皮膚も脆弱であったこと、また糖尿病の基礎疾患があったので、簡単にはいきませんでした。

主治医の指示により、翌日よりゲーベン軟膏へ塗り薬が変更となりました。

ご本人は楽観的で「入院はしたくない、家で治してくれ」と笑っておられました。

点滴の開始

血が出始めている糖尿病患者のキズの様子

さらに2日後です

出血が増え始めました。

主治医の指示によりイソジンシュガー軟膏へ塗り薬変更となりました。

また、抗生剤の処方、利尿剤の追加がありました。

しかし、足の浮腫みが日に日に強くなってきていました。

食欲も減ってきていたため、動物性たんぱく質(肉、魚、卵など)を積極的に食べるように指導していましたが、お一人暮らしというのもあり、簡易的な食事になることが多い傾向にありました。

「もう死ぬだけやから、食事我慢したくないなあ」とご本人はあまりお食事など意識せず過ごされていました。

在宅の場合は、ご本人の意思を尊重しますので、アドバイスはしますが、強く制限することはありません(タバコも同様です)

医師の訪問診療時には中に溜まっているコアグラ(血の塊)を洗浄して除去する処置が行われています。

このころより、シャワーでの洗浄ではなく生理食塩水での洗浄が開始となりました。

さらに1か月が経過し、足の浮腫み増強、腫れも強くなってきていたため

ヨードコートという軟膏に変更 赤く腫れている部分にはアクリノール処置開始されました。さらに抗生剤の点滴が開始となりました。

このころより、膿が出始めました。はじめは黄茶色でしたが、徐々に白茶乳色になってきました。

さらに、キズはポケット(穴)になっており、どんどん深くなっていました。

「看護師さん毎日来てくれるのが、今の一番の楽しみや」などご本人はどこか楽観的です。

糖尿病があるとキズが治癒しにくいことを知っている我々医療従事者は、在宅での治癒は難しいと考え始めていました。

糖尿病による神経障害のため痛みはほとんどなく、自覚症状に乏しい状態でした。

在宅での治療の限界

神経障害で痛みがなく悪化していき在宅では限界を迎えている糖尿病患者のキズ

抗生剤の点滴開始から2週間後です。

毎日の処置も虚しく、ポッカリと穴が開いた状態で、下のほうにも新たに穴が空いて、空洞はつながってしまいました。

皮膚の色も血色不良で、糖尿病性神経障害のため、痛みはほとんど感じることはありません。

感染兆候がないことだけが救いです。

ここまできてしまうと、在宅での処置は限界です。このまま家での処置を続けていては足を切り落とさなくてはならなくなるでしょう。

ご本人は、「入院はいやや、どーにか家で頑張れないのか」

と言われていましたが、足を切り落とす可能性をお伝えし、しぶしぶ入院となりました。

植皮術のすごさ

入院後に植皮手術(皮膚移植)を行い、きれいに治癒した足の様子

ご自分のお腹の皮膚を移植する手術を受けられました。

2か月の入院でした。

凹凸はありますが、無事に綺麗に塞がっています。

さすが病院です。

在宅での処置には限界があります。

「入院したくない」と、希望される利用者さんはたくさんいらっしゃいますが

医師、看護師、その他専門のスタッフによる判断で、適切な時期に適切な医療を提供できるように方向性を示していきます。

家で安全安楽に暮らしながら、ご自分らしく過ごしていけるお手伝いができれば幸いです。

まとめ:糖尿病のキズを見逃さないために

糖尿病がある方は、神経障害で「痛み」を感じにくいです

今回のBさんの様に「ちょっとこけただけ」「ただの水ぶくれ」と思っても、急激に悪化することがあります。

長年、糖尿病の既往のある方は、毎日足を観察し、変化があればすぐに看護師や医師に相談することが大切です。

※本記事で紹介している経過や処置は、特定の患者様の一例であり、すべての糖尿病患者様に共通するものではありません。皮膚のトラブルやキズがある場合は、自己判断せず、必ず主治医や専門の医療機関にご相談ください。

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